耳殻都市

夥しい金曜日が耳殻都市に散乱し、

回廊の壁にあたって殷々たる響きをたてた。

私は昼と夜の境で駱駝をひろうと、

既に巻きパンのように潰れたコンスタンチノーブルの町へ一散に遁走した。



海の匂いのする理髪店では、

モーツアルトの耳の形を愛している女がいて、

黄色いカナリヤの戦争の話などしていた。

彼女の緑色の耳の中は、キリストの去ったエルサレムの町に似ていた。

そこには丁度曲り角ばかりでできたヘブライの音楽のように

月光が至るところで反射していた。



『耳について何か恐怖を感じていますね』 彼女が尋ねた。

『いいえ。耳について莫然たる美しさを感じているだけです』

彼女は長い間、雲とたわむれているスペインの艦隊などを見ていたが、

そのうちに、いつか小さな地中海を開いたまま眠ってしまった。



秋風に遠い耳殻都市がからからと鳴っていた。

コロンブスのポケットの中では、

耳の博覧会がしめやかに開かれていた。    







- 山田賢二『耳殻都市』(1966)詩宴社